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『トヨトミの逆襲』-社内人事も企業活動も、政治が大事?

めちゃくちゃ今更ながら読みました。今回もとても良かった。

前作よりも陰湿な感じでしたが、最近の話なので想像しながら読めたのが楽しかった。

 

前作がこちら↓。前作の方が熱くて好みではありました。

 

begin2019.hatenablog.com

 

○著者

 梶山三郎

経済記者、覆面作家。2016年10月18日、『トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業』(講談社)で衝撃デビュー。同書は2019年10月、小学館文庫に。

(本書巻末より引用)

 

 

○内容

 

豊臣統一(豊田章男)が新社長に就任から10年が経っていた。それまでにリーマンショック、高級セダン・ゼウス(レクサス)の暴走事故、大規模なリコールとアメリカ議会による公聴会での証言等を経験していた。そして世の中はEVの時代へ。

当初ハイブリット車に力を入れていたトヨトミ(トヨタ自動車)は、マツモト自動車(マツダ)と提携しEVに本格的に取り組み始めるが、世界と比べ出遅れていた。

 

ドイチェファーレン(フォルクスワーゲン)はディーゼル不正のあと、ZEV開発に舵を切っていた。中国は政府としてEVに緩和政策を取り、テスラやグーグルが自動運転技術を持って市場に参入してくる等、自動車業界を取り巻く環境は大きく変わっていた。

 

ただし、技術的な課題は共通していた。バッテリーをたくさん積めば走行距離は増す、しかしその分高コストになる。ガソリン車と同レベルの価格で、同レベルの走行距離の車を作ることはどの会社も解決できない課題だった。

 

 

一方トヨトミの下請け企業(サプライヤー)は、EV化によってその役割を失うことを恐れていた。しかしサプライヤーのうちの一・森製作所にはEVで強い技術があった。

 

トップレベルの技術を持つが、規模は小さなメーカーであった森製作所は、トヨトミに不満を抱いていた。かつてプロメテウス(プリウス)の内部部品であるモーターの巻線を製作していた会社のだが、ある時彼らが作った図面を、トヨトミが盗んだからである。(受注を見越し図面をやりとりしていたにも関わらず、その図面だけを受け取り発注をしなかった。)

 

そんな裏切られた森製作所に、ワールドビジョンの宗正一(ソフトバンク孫正義) が声をかける。サワダ(本田技研)と省電力モーターを使用したカーシェアの構想の一端を担わないかという打診である。トヨトミに裏切られ疑心暗鬼になっていた森製作所社長も、宋会長に説得されその依頼を受けることとなった。

 

EV化を進める中で、トヨトミは森製作所の技術力に頼ることを検討し始めるが、裏切りの過去があったためそううまく話は進まない。しかもその裏切りは一社員の私欲のためであった。リベート目的の、購買部長単独の判断が企業としての信頼を損ねていたのであった。

(・・・この森製作所、実在の会社を探したのですが特定できませんでした。)

 

 

  

 また、世情は米中貿易戦争の只中。関税の掛け合いから日本を味方に取り込もうとしたのか、中国が日本企業に急接近していた。雄安新区にトヨタを引き入れようとする動きがあったり。

(雄安新区とは↓)

習主席肝いり 中国ハイテク都市「雄安新区」の実力は:日経ビジネス電子版

 

その動きの中で、トヨトミはワールドビジョンとの合弁会社を作る。

(実際にあるHP→MONETとは | MONET Technologies

この会社を作った目的は何か。

ワールドビジョンの目的は、自動車メーカーとしてのノウハウを得ること。そして実際に制作することをトヨトミに担ってもらうこと。一方トヨトミ側のメリットは、米中両方にパイプを持つ宗に取り入ることであった。

会長の宗はトライブ(トランプ)大統領が最初にあった日本人である。宋にはアラジングループのジャッキー・ワン(アリババのジャックマー)の人脈があったため、そのようなことが可能だった。そんな強い人脈を世界中に持つ宗を、トヨトミは味方につける必要があった。

 

それはなぜか?

IoTの時代、すべてのものが軍事となる。例えば航空機が自動運航している時、ハッキングすればテロを起こせる。車も然りで、インターネットと繋がるもの全てにサイバー犯罪のリスクが生じる。それを防ぐために、当然セキュリティ基準を整備するのだが、まずは国単位でのものとなる。その自国の基準を、国際基準とできれば、その国の製品の国際競争力は高まる。政府は国を強くするため、自国が国際基準を握りたい。

その時企業はどうするかというと、「デジュール・スタンダード」、公的機関がその基準を定めるものだが、それを制することを考える。基準が定まる前に政府に取り入り、他社・他国の製品より早く基準に適したものを拡販することができるからである。安全保障と通商は一体となっているのが実情ということ。

 

トヨトミも、宗の人脈を使ってアメリカ政府・中国政府両方と繋がり、それぞれのデジュール・スタンダードを抑えたいと考えたのだ、と前社長の武田(奥田碩、彼の話は前作『トヨトミの野望』で。)は語る。

 

TikTokの規制でOracleが云々…って話ありましたね。ファーウェイ副会長の逮捕とかも・・・。当時そのニュースをよく理解できていかなかったのですが、こういう背景を知っていくといろいろ繋がりますね。(トランプ氏、TikTokとオラクルの提携案を「承認」 データの安全性「100%保たれる」と - BBCニュース))

 

 

 

社内政治の話も面白かった〜。

社長の統一は、自分の意に反することを言う人をどんどん切って、ご機嫌を伺う役員ばかりで周りを固めてしまっていた。 

林は若い頃から統一の信頼を勝ち得て副社長となり、統一を意のままに動かしていた。

寺内は統一の「お友達」で、Facebookに視察情報を載せるような間抜けであるのに、副社長の座についていた。

もう一人の副社長の照市は出世欲より研究者気質。しかしそんな彼が上がるのはうまくないと周りは考えている。

そして人事を握る笠原は、中国トヨトミ会長となり、林から次の社長の座を匂わされ色気を出していた。人事権を握っていたため、自分が上に行くために邪魔なものを異動させるような、私欲に塗れた配置をしていた。

また三代前の社長・武田は、顧問・相談役一斉解雇の際に権限をなくされている。統一にとって邪魔な存在であり、コーポレートガバナンスを理由にした体のいい解雇だった。(元々外国人株主らから、権限や報酬に顧問や相談役の給与や役割に透明性がないとして指摘を受けていた。)

そんな彼らの存在を、父親であり元社長をしていた豊臣新太郎に注意される。創業一族であり社長である自分にすり寄ってくる人間を信頼するなというが、統一はそれをなかなか聞き入れられずにいた。しかしあることをきっかけに、統一の目が覚め、考えがガラリと変わっていく。

 

 

 

名言いろいろ。 

劣等感を持つ人間は権力に誠実だ。

 これは本当にそう。私の上昇志向の根源は劣等感かもしれない。

 

 

トヨトミにいる限り自分だけは何があっても逃げられない。

創業一家だからこそ良い思いをすることもあるけれど、周りも自分自身も、ただのサラリーマンとは自分(豊臣統一)を見ない。その責任がこの言葉に表れているなあと思ったり。

 

 

○感想

 

社内政治がドロドロでした。みんな私利私欲に塗れて、ピュアな社長は彼らに騙されて(お父さんである前社長の言葉があったから気付けたけど)、そんなんで良いの?という気持ちになりました。

結局部長以下くらいが企業の売り上げとか目の前の数字のことを考えて、それ以上は社内外の政治とか、もっと広いところを見て世の中を動かしてるんかなあ。国際基準がないところを押さえていくことが大事、という話とか、まさしく政治的やもんなあ。。。

 

そして米中の対立に対して、企業はどうやって対応していくかというのは面白かった。

少し前に読んだスマートシティもそんな話でしたね。売り上げで戦うことを考えるのも大事、でもそもそものまず戦い方、ルールを決めるのが政治でそこを押さえていく方がもっと大事。

 

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トヨタ関係で最近ちょうど良い記事が。

 

前作より登場人物の個性が薄くてつまらなかった。アツさがある人とか、迫力ある女性とかが欲しかったな・・・(これは最近買った黒革の手帖の方で楽しめばいいかな)。

 

あとは最近のブログについて。

毎月100PV行くようになって嬉しいです。でもまじで誰が見つけてきて読んでくれるのか…謎です。Google Analyticsとかアクセス解析とか見るけど、結局どんな人かはわからないから、本当に不思議。まああまり意識せず、自分の整理のために書いていきます。

 

<メモ>柳沢吉保徳川綱吉の寵愛を受けた、自分の出世の邪魔になるものをどけた人っぽい。  

 

おしまい。

 

 

トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業

トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業

  • 作者:梶山 三郎
  • 発売日: 2016/10/19
  • メディア: 単行本
 

 

 

トヨトミの逆襲: 小説・巨大自動車企業

トヨトミの逆襲: 小説・巨大自動車企業