本『マチネの終わりに』-知性ある人の狂うような恋
年末年始休暇のセルフ課題図書4冊目です。別に課題にしなくてもよかったな。期限を設けず、ゆっくり読みました。
これでとりあえず年末年始の課題図書はおしまい。
◎年末年始の課題図書◎
①12/30
『僕は君たちに武器を配りたい(エッセンシャル版)』
②12/31-1/2
『ストーリーとしての競争戦略』
③1/3-1/4
『株の学校 超入門』
④1/5-
『マチネの終わりに』
○内容
ギタリスト・蒔野聡史と国際ジャーナリスト・小峰洋子のすれ違う恋が描かれています。
二人は蒔野の演奏会で出会います。蒔野は人気のある天才ギタリスト、洋子はクロアチア人の父を持ち、パリを拠点に中東の取材をしているジャーナリスト。彼女は現地取材のためイラクへ行く直前に、この演奏会を聴きに来ていました。
最初の出会いからお互いに惹かれ合いますが、彼らの間には多くの障壁が立ちはだかり、運命に翻弄されていきます。
事実をもとにしており、2006〜2012年頃の世界情勢(特にイラク戦争とリーマンショック)について細かく描かれていて、心を痛めるところもありました。
ちなみに作者・平野啓一郎さんは母校の卒業生。そうとは思えない情緒ある作家さんです。(母校は文武両道を謳うお堅い進学校なので。)
○感想
詩的なキレイな文体で、おしゃれな恋愛が描かれていました。教養とセンスのある会話をする二人がうらやましい。知性のない私が、頑張ってもスノッブになるだけと思います。クラシックを「がんばっていた」のだから、土台無理な話なのでしょうが、まだ諦められずにいます。知識だけでなく知性が欲しいものですが、焦りがちな私は表面的な知ることそのものに力を入れがちです。
文章があんまりステキだったのでいくらか引用。
「音楽は、静寂の美に対し、それへの対決から生まれるのであって、音楽の創造とは、静寂の美に対して、音を素材とする新たな美を目指すことの中にある。」
愛するという点では、常に洋子に先んじていて、育ちの悪くない情熱もあった。
育ちの悪くない情熱!
その天分の眩しさに対して、一握りの嫌な感情の存していることを、寂しい気持ちで認めた。
どこか本質的に自分を見失い、自らをすっかり相手に明け渡してしまう喜び。
今の自分をなくしてしまいたいという欲求の一方で、その愛のためには、自分自身を維持しなければならないという義務感
もうどこを切り取ってもおしゃれ。ビジネス書を読み漁るのに疲れていたので、こんなステキな本で癒されてちょうど良いタイミングでした。
また、小説の中で、洋子はイラク戦争真っ只中のバグダッドを訪れ取材しています。パリへ亡命してきたイラク人女性も登場し、戦争がどれだけ個人を苦しめているのかがわかります。恋愛小説ですが、登場人物の仕事を通して、リアルな世界のことも少し見えてきます。
おしまい